「愛犬をたくさん褒めてあげてください」と、本やネットには良く書かれているものの、実際にはどうやって褒めるのがいいのかな?もしかして、私って「ほめ下手」なのかもしれない!?と、お悩みの方も多いと聞きます。今回は犬のほめ方にフォーカスし、犬に伝わりやすい声のかけ方を、3つお送りします。
ついつい使っていませんか?〇〇言葉

「おしゃんぽに行こうか」、「ねんね、ねんね」などといった、親が人の赤ちゃんに話しかけるような言葉。犬を飼っている方なら、ついつい、こんな口調で話しかけることもありますよね。そう聞くと、一見悪いことのように感じますが、これには科学的な理由があるそう。それは、人は、犬や猫など小さい動物を見ると、無意識のうちに母性本能を刺激されるために、赤ちゃん言葉で話しかけてしまうものだということ。つまり、母性本能がもたらす人間の仕組みというわけですね。なるほど、納得です。
では、通常の言葉と赤ちゃん言葉、この二つの掛け声、犬はどちらがより心地よく感じるのでしょうか。ある研究結果によると、犬は赤ちゃん言葉で話しかけられると、「リラックス」、「幸せ」、「期待」といった安らぎの感情が高まるということ。ですから、私たちがついつい愛犬に使ってしまう赤ちゃん言葉には、犬にとっても良い効果をもたらしていますのかもしれません。
犬に伝わるほめ方、3つ

どんな声のかけ方をすると犬が喜ぶの?この質問に対し、犬へのメッセージが伝わりやすくなる、具体的な褒め方についてお送りします。伝わる褒め方には3つの掟がありますが、組み合わせることによって、より効果的に使えます。今日からさっそくトライできる「伝わる話し方」(ほめ方)をご紹介します。
清く美しく

声のトーンについてご説明します。結論から申し上げると、犬は澄んだ優しい声色を好みます。これは女性の方が好まれるという意味ではなく、男性でも子供でも、穏やかでゆったりとした声が犬は好きです。「清く」は、澱みのない声色を指しています。例えば、疲れたようなうんざりしたような声のかけ方では、聞き慣れている飼い主の声であったとしても、犬は、どうしたのかな?と、不安に感じ、少しの警戒心を持ち始めます。

「美しく」は、声の高さのこと。女性にありがちな、キーキーとしたヒステリックなピーキーボイス、ふにゃふにゃとした頼りない泣き言のような声は、犬の不安を増長させます。犬は感覚を大事に行動する生きものですから、大好きな飼い主であっても、不安定な状態を発信しているときには、近づかないでおこうと思うものです。ぜひ、落ち着いたソプラノで声をかけてみてくださいね。良いことをほめるときは特に清く美しい声をかけると、犬はとても喜びます。
キラーワードは、ほどほどに

それを聞くと、いてもたってもいられなくなるようなキラーワードが、どの犬にもあります。犬によってそれぞれですが、一般的に多いのは「おさんぽ」、「おやつ」、「おでかけ」ではないでしょうか。これらについて、犬は言葉の種類を聞き分けられない、という、古風な常識にとらわれているようでは、犬と心をつなげることはできません。みなさまもすでにご周知のように、犬は言葉の意味は正確にはわからなくても、単語と行動を直結して覚える能力を持っています。こうしたキラーワード聞くと、何をおいてもテンションが上がり、いてもたってもいられないような多幸感にたちまち包まれてしまう。これがキラーワードですね。

このキラーワードの使いどころについては少し注意が必要です。飼い主は、それぞれの犬にとってのキラーフレーズを知っているため、ついつい多用しがちになってしまうことがあります。しかし、喜ぶ顔を見たいからといって、本当は行かないのに「おさんぽ!」と言ってみたり、実際には与えないのに「おやつ!」などと、からかうように頻繁に使うのはいかがなものでしょうか。犬は有言実行、約束を守る人に信頼を寄せる生きもの、だということをお忘れなきよう、接していただきたいのです。
最初のギフト

産まれてきた赤ちゃんへの最初の贈り物は、名前。人がそうであるように、犬もまた同じことが言えます。子犬を迎えた場合は、「名前はどうする?」などと、ワクワクしながら家族会議を開いたりするのではないでしょうか。里親などで成犬を譲り受けた場合でも、元の名前でそのまま呼ぶか、新しい名前を付けて呼ぶかについては、飼い主が選択するケースが多いですね。ですから、ほとんどの犬が最初にプレゼントされるのは「名前」であると言えます。

ある研究では、犬はたくさんの雑音の中でも、飼い主が自分の名前を呼ぶ声だけは聴きとれる、という結果が出ました。それほど、犬にとって自分の名前は特別なものだというわけです。ちなみに、あるペット保険会社の調査結果によると、近年の犬の名前ベスト3は以下です。女の子は、ムギ、ココ、ソラ。男の子は、レオ、ソラ、ムギ。どれも可愛らしく呼びやすい名前です。

こんなにも素敵な名前を付けたにも関わらず、名前を呼んで叱りつける飼い主を見ると、非常に残念な気持ちでいっぱいになります。「こら!〇〇ちゃん!!!」、「も~〇〇!こっちに来なさい!!」などと叱咤することに加え、中には「〇〇!!!」と、激しく叱りながら犬の尻や頭をぶつ飼い主もいます。こうした名前を呼んでの叱り方が続けば、犬は自分の名前に良い印象が持てなくなってしまいます。
名前を呼ばれると良いことがない、と覚えてしまえば、犬は自分の居場所がわからずに、不安定になります。不安定が続けば、いつしか不満や悲しさがあふれ出てしまい、私たち飼い主にとって望まない行動に繋がっていきます。名前は犬への最初のギフト。これを時に思い出し、名前を呼ぶのは叱る場面ではなく、褒める場面に使いましょう。そうすれば、名前を呼ばれるたびにハッピーな気持ちが広がっていきます。

取り入れてみよう!プロの声かけ
さて、ここからは褒め方の専門家、ドッグトレーナーの声のかけ方について見ていきましょう。
日本のドッグトレーナー
「そうそう、そうそう!」とか「いいよ、いいよ!」などの掛け声をかけるドッグトレーナーが日本では多いように思います。これには決まったフレーズというものはありませんが、だいたいこのような感じで、他には「よーし、よしよし」を使うドッグトレーナーもいます。いずれも、同じような言葉を連続していることがポイントです。
海外のドッグトレーナー
欧米では「グッドボーイ!グーッド!」とか「ナイス!ナーイス!」などの掛け声が使われることが多いです。他に「ワ~オワオワオ~」とか、「パーフェクト」「グッジョ~ブ!」などもよく聞きます。欧米のドッグトレーナーたちは、褒めるスペシャリスト。色んな褒め技スキルを持っていて、体全体でそれを犬に伝えられるので、犬もパッと明るい表情になり、楽しんでトレーニングを覚えていく様子が見られます。

プロのエッセンスをひとさじ
この掛け声に合わせ、プロのエッセンスが加えられます。それは、笑顔。スマイルです。なんで関係があるの!?と、不思議に思った方もいるでしょう。でも、これが非常に大事。犬のボディランゲージでは、歯を見せるという行動は「相手に対して敵意がありませんよ」という意味を持ちます。ですから、歯をバッチリと見せて笑いかけてくれる人を、より信頼しやすくなるというのが解りますね。
タイミングと記憶域

犬は、その瞬間、瞬間を大事に生きます。ですから、良いことをしたら、そのタイミングを見逃さずにすぐに褒めることが基本です。しかし、もう少し踏み込んで見てみると、犬の記憶は短期的記憶と、長期的記憶の二つに大きく分けられています。短期的記憶は、一時的に必要な情報を保存し、その情報を「すぐに使う場合」などに使用されます。人の場合でも短期的記憶は、最高で、7つまでしか脳内に保存できず、その時間は、約10秒~15秒、長くても1分程しか保存できないと言われていますが、情報を記憶の必要性が高いと脳が判断した場合には長期記憶のゾーンへと送られます。
「声をかけられ、褒められた記憶」というのは、犬の脳内長期記憶の中の「エピソード記憶」として残り、飼い主の指示(コマンド)、自身の行動、報酬(ほめてもらったり、ご褒美をもらうこと)加えて周囲の状況など、そのときの感情が結びついて脳内に強くインプットされます。こういった経験をくりかえすたびに、脳内で固定化されたものが「陽性強化」と呼ばれる、褒めるしつけ法です。
犬はなぜ褒められるのが好きなの?

犬が褒められるとなぜ喜ぶか、について、様々な実験が研究者の間で行われていますが、その理由はこれだ!というズバリ決定的なものは、実はまだ解明されていません。しかし、犬という動物の習性には、「報酬」というものが大きく関係していることが分かっています。その報酬のひとつが「褒められること」です。報酬には他に、おやつ、撫でられる、認められる、いい気分になる、などがあります。犬にとって、飼い主からの掛け声が一番の報酬になるように、日々、きずなを強めていきたいですね。
実践!上手な褒め方、ポイント集

さて、一般的に行われている褒め上手な飼い主の、声のかけ方を見てみましょう。あなたの声の褒め方は、いくつ該当しているでしょうか。
短く
いい子、よしよし、いいね、そうそう、グッド、ナイス、など、短い言葉を繰り返して褒めると、犬に伝わりやすく、それを受けた犬はあなたに親しみと喜びの感情を持ちます。反対に、長く、くどくどとしつこく褒めるのは、あまり犬に伝わらないことが多いものです。
すぐに
タイミングが勝負。良い行動、飼い主が望む行動をしたら見逃してはいけません。すかさず、すぐに褒めるというのが大きなポイントです。犬はその瞬間にタイミングを逃さず褒められることで、今の行動は→褒められるんだ→またやろう!と、学習していきます。
高い声で
犬の唸り声を想像してみてください。「ウゥ~」と低く、くぐもった声ですね。犬は相手に対して不信感や警戒心を持つとき、また、それは嫌だ、という拒否の気持ちを持つときは低い声を出すものです。飼い主も、犬をたしなめたり注意をする際は、自然と厳しめの低い声になっていることが多いでしょう。ですから、褒める時はその反対。高く優しい声で褒めるのが効果的です。
笑顔で
犬が笑うような表情を見せるのは、犬が歴史の中で人と暮らすようになり、より人とコミュニケーションを深める必要があったからだという説があります。そうだとすれば、犬を褒めるとき、私たち人も言葉だけではなく、笑顔で褒めるのがより効果的なはずです。
心から
いくら笑顔を取り繕っても、心から褒めなければ犬には伝わりません。これは経験からも言えることですが、心ここにあらずの状態で犬を褒めると、褒められた犬はポカンとしたような表情で、その褒めをスルーしてしまうようなところがあります。せっかく褒めても、犬がキャッチしてくれなければ、あまり良い効果は期待できません。犬は人よりも何倍も直感に優れた生きものですから、すぐに気づいてしまうのです。
まとめ

知っているようで実はあまり知られていない褒め方。本記事をお読みになった皆様が、自身と愛犬の関係を見つめなおす機会にしていただければ幸いです。ここで「プロとは違うから、飼い主が同じように言っても無理じゃない?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。でも、ちがいます。
私たちプロの褒め方が犬に伝わりやすいのには、ある理由があります。それは、心から気持ちを込めているからです。つまり、犬に伝わる声のかけ方、褒め方で大事なのはテクニックよりも飼い主の気持ちの問題なのです。犬は、うそを見抜ける力を持っていますから、生半可に褒められるのはあまり伝わらないことがままあります。褒める、というのは、認める、ということにも繋がります。

犬は飼い主に認められるのをいつでも待ち望んでいます。成犬になってしまったから、もうシニア犬だからとあきらめる必要は全くありません。どんなときでも、犬はあなたからの優しい声が、最高に嬉しいものなのです。これを読んだ後、愛犬にぜひ声をかけてみてください。あなたがかける言葉に、褒めるフレーズに、愛犬は喜んでくれるでしょうか。きっと、大喜びでビッグスマイルを返してくれるに違いありませんね。皆様がいつまでも幸せに満ち溢れるように、たくさん褒めて、愛情の声かけを紡いでくだされば嬉しい限りです。
2024年10月21日 Re:Write by YUKARI IWAI